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② フェザークラフトという舟

 今年(2012年)10月6日から8日まで、フェザークラフト社製の折りたたみカヤックを持っている方対象のツアーを行った。あいにくの天気で北東風が強く、風裏である南風見田浜にある「南風見田キャンプ場」をベースに泊まりながら海、川、山にデイツアーで行くスタイルで楽しんでもらった。フェザークラフトの特性を生かしたツアーとはいかなかったが、西表島初心者の今回のお客様にはこの島の概要を知ってもらうようなツアーになって今後のツアーに期待を持ってもらえるものになったと思う。

 ちょうどその頃、別のフェザークラフトの旅が始まっていた。
 カナダに本社があるフェザークラフト、その社長ダグラス・シンプソン氏が2007年から2年越しで行っているセーリング仕様にしたカヤックで鹿児島から沖縄諸島を経由して台湾まで行くという遠征だ。
 2007年は鹿児島から沖縄本島まで。2010年が沖縄本島から座間味島に渡り、そこから宮古島まで。そして今年2012年が宮古島から八重山を経由して台湾に行く予定だった。
 旅が始まる前、事前調査をダグと同行する日本のフェザークラフト販売を行っている業者の一つ、「グランストリーム」の大瀬氏に頼まれていた。台湾~与那国間の黒潮を横断することももちろん重大な問題だったが、一番の心配事は日本国から海外(台湾)に行くことが正規に可能か?ということだった。
 色々な情報をいただいたが、結局のところ当人たちが現地にて交渉を行うのが一番だということに落ち着き、旅は開始された。結果は尖閣問題などもあり「無理だろ」「やめた方がいい」という意見が多かった中、海上保安庁の許可(厳密には違うのだけど)も得られて、晴れて合法的に(?)台湾まで行くことができることになった。でもしかし今度は天候がそれを許さず、台風17号で宮古島からの出発が遅れたうえに、21号の影響で八重山から台湾に渡るのは難しくなった。ダグ達の来日期限も限られており、今回の旅は西表島で切り上げる形となった。
 うちのツアー最終日、ゲストのカヤックをばらし終わりトレッキングに出かけようと車で仲間橋を渡っていると、川をタンデム艇が進んでいるのが見えた。
「あれ?あれはk-2じゃないか??」
 よく見るとダグ、大瀬さんが乗っているのが見えた。慌てて道をそれて漁港のスロープに向かうと、むこうもこちらに気付いて近づいてきた。ちょうど旅を諦めてセールを外し、仲間川を遊びで漕ぎに来たところだったらしい。ゲストにはスペシャルゲストとしてダグ達を紹介し、飛び切りの出会いに皆で歓喜し合った。

 学生時代、西表島でシーカヤックを覚えた僕は、どうしても自分の舟が欲しかった。それはシーカヤックを本気でやりたいと心から思っていたからだ。
 シーカヤックで何がやりたいのか?と、問われればそれは旅がしたかった。海を自由に行き来したかったのだ。海を移動するなんて、一部のマリンスポーツをやっている人たちか渡船業者、漁師でなければできないと思っていたが、シーカヤックを使えばどこにでも行くことができる。少なくとも、目に見える範囲の島、陸には行くことができる。それがわかった僕は自分で好き勝手に使うことができるマイカヤックがどうしても必要だと思ったのだ。
 そんな僕が選んだカヤックがプラスチック製の固いカヤックではなく、フェザークラフトという折りたたみのカヤック、通称ファルトボートと言われるカヤックだった。けして安い買い物ではなく、むしろ学生を卒業したばかりの僕には生まれて最高額の買い物だったが、それを手にした時の感動は今でも忘れない。当時、葉山にあった「セタス」(現・千葉県鴨川)でカヤックを受け取り、京急の電車で自宅に帰る途中はずっと鳥肌がおさまらなかった。
 進水式は品川の港南にある東京水産大学(現・東京海洋大学)のポンドで行った。まさにツアーでは漕ぐことのない海だ。同じサークルの友人が操船するアルミボートとともに京浜運河を漕ぎ、通い慣れた品川の街を水辺から見て自分の新しい門出を友人や後輩たちに祝ってもらった。
 カヤックを買った僕は西表島の「南風見ぱぴよん」の門をたたいた。ここでワンシーズン、みっちりシーカヤックを仕込まれた。その後島を出てからはカヤックを持って憧れだった東南アラスカに出かけたり、西表島から北海道知床半島まで旅したり、八重山諸島を一周したり、小豆島を漕いでいる時に知り合ったショップでガイドをしたりした。
 2007年、再び西表島「南風見ぱぴよん」に復帰してからも、夏はカヤックガイド、冬は東京で働き、その合間を利用してカヤックで漕ぎまわった。フラッグシップモデルの「K-1」を買ったのもこの頃で車もなく、神出鬼没の僕にはフェザークラフトのカヤックはどこにでも持っていったり、宅急便で送ったりすることができるので具合が良かったのだ。

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2009年1月 NewZealand :Milford Sound

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2009年3月 NewZealand :Wangamata Island

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2007年6月 Alaska : Glacier Bay

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2005年7月 屋久島西部林道沖(撮影:Taeji Hatanaka)

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2008年2月 奥琵琶湖(撮影:Ocean Shiro )

 シーカヤックの楽しみとは何なのか?と、よくお客さんに聞かれます。これを読んでいる方も疑問に思う人もいることでしょう。
 正直言うと、それは人それぞれです。
 ただ単に漕ぐだけで風を感じられて好きだという人もいれば、釣りをするためだったり、サーフィンやダイビングに行くための手段だったりします。技術的なことに凝ったり、その形状の特性を楽しんだりする人もいます。
 西表島でシーカヤックを使用してツアーを行っている僕としては西表島の自然を楽しんで体感してもらうために使用していますし、そういう楽しみももちろんあります。
 でも僕が第一に考えるカヤックの楽しみは「好きな海を自分の能力で進む」ことにあると思っています。カヤックの楽しみ自体に関しては、また別のテーマでコラムにて書きたいと思いますが、ここで僕が言いたいのはその楽しみ方をするにはフェザークラフトの舟は最高であるということです。
 僕がこれほどまでに自由に移動して各地でカヤックを漕ぐことができたのもフェザークラフトを所持していたからともいえるし、それによって得た感動は計り知れないものがあります。日本各地に今やカヤックのアウトフィッターはいますし、そこを利用しながら各地を漕ぐことはできますが、あくまでツアーです。自分で漕ぐということはできません。
 ツアーを楽しむのはまた別の楽しみ方です。僕自身、多くの先輩たちのツアーに参加しましたし、今でも参加することがあります。でも道のない海原を漕げるのがカヤックの楽しみだとしたら、ナビゲーションも自分でしたいと思うのは僕だけではないはずです。
 もう一つのカヤックの楽しみとして「海を知る」ということがあると思います。その時の天候、風向き、強さ、うねりの入り方、潮流の向き、強さ、海流の影響、船舶の航行状況、漁師の反応、海洋動物の危険、人工物の障害・・・。そういうものと自分たちの実力を考慮してその時もっとも自分たちに負荷のかからないコースを通るか。クライマーが美しいラインを描いて登頂するように、僕らシーカヤッカーもそれを海の上に描きます。それが海を知るということにつながり、シーカヤックの楽しみであると思います。ガイドはそれをチーム全体の力量を考慮してコースを決める役割です。だからガイド業は神経こそ使うものの、最も面白い立場だともいえます。
 僕はシーカヤックツアーに参加する人たちにそういう楽しみも味わってもらいたいと思っています。大船に乗ったつもりですべてお任せの気持ちで参加してもらうのも一向に構いません。シーカヤックで感じる感動は人それぞれ。でもそれがシーカヤックの楽しみのすべてだとは思ってほしくないと、ツーリズム関係者らしからぬことを思うわけです・・・。シーカヤックのその楽しみ方を味わってもらうようなツアーならぬ、旅の仕方を模索する今日この頃です。
 話がそれましたが、フェザークラフトを漕ぐことでその楽しみに一歩近づくと僕は思っています。自分がフェザークラフトを使ってきたからとも言えますが、僕が伝えられることと言えば、まずそれなのではないか?と思います。

 今回のダグ達の遠征に使われている舟は、フェザークラフトのK-2というタンデム艇にアウトリガーを両サイドに備え付けてバランスを良くし、セールを立てて沖縄のサバニ型の帆をかけたものです。
 当初、「あれはカヤックではないし、ヨットでもない。中途半端なものだ」ということをよく関係者から聞きました。カヤックとはコースタルカヤッキング、つまり沿岸を漕ぐもので外洋航海にはそもそも向かないものだ。人間が漕げる能力の限界が、カヤックの限界だ…ということも聞きました。
 その辺のウンチクの真意はよくわかりません。いや、実際のところ誰もわからないんじゃないかと思います。ただ言えるのはこのセーリングカヤックは単純に思いついて開発し、いきなり遠征に使用しているという物ではありません。数々の実験航海を繰り返し、何度も何度も試行錯誤を繰り返しながら開発されているもので、今現在も進化している段階です。僕が一番に凄いなと思うのは、そういうものを発明して開発し、何年もかけながら良いものを作ろう、面白いことをしようとするダグ本人ももちろん、その周りに多数の協力者が集まり、人から見れば下らないことを面白がって行っていることです。セーリングカヤックが中途半端なもので、完成されない物なのかもしれませんが、人生に納得しながら生きている。そんな人たちです。
 2009年に若狭湾でフェザークラフトのオーナーが集まるイベントがあり、そこでセーリングカヤックのワークショップを受講しましたが、まさにそんな聞き分けのきかない大人たちの集団だったと思います(笑)
 そんな遊びを忘れない人たちがデザイン、開発、製作、使用しているフェザークラフトという舟が、僕はやはり大好きなのです。
 この舟でカヤックの楽しみを知りました。だからこそ、皆さんにもこの舟を漕いで海旅に出かけてほしいと自分は思っています。


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2009年10月のフェザークラフトオーナーミーティング後に行われた若狭湾セイリングカヤックのワークショップ


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西表某所での浜宴会(撮影:Junichi Fujii)


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2012年10月4日石垣島登野城港にて(撮影:Yoshiyuki Akatsuka)

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偶然仲間川上流に向かう遠征隊と合流するバジャウトリップ・フェザーオーナーツアーのお客様たち


リンク

granstream グランストリーム   :http://granstream.jp/
Feathercraft フェザークラフト
         日本語サイト   :http://www.feathercraft.jp/
      カナダ・英語サイト   :http://feathercraft.com/


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